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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)167号 判決 1970年1月29日

原告

株式会社十川ゴム製造所

代理人

中島純一

弁理士

中島信一

被告

タイガースゴム株式会社

弁理士

西田正尚

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件の特許庁における手続の経緯、本件登録意匠および引用意匠の構成ならびに本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二引用意匠(登録第一四六八三四号の類似第一号、物品ビニールホース)が本件登録(第二〇七七二〇号、物品可撓性伸縮ホース)登録出願前頒布された刊行物に記載されていること、本件登録意匠と引用意匠の意匠に係る物品が同一であることは、当事者間に争いがない。ところで、二個の意匠の類否は、意匠に係る物品の製作方法や内部構造の類否とは無関係に、出願された意匠そのものの外観を全体的に観察し、その意匠的効果、すなわち視覚を通じて美感を起させる態様の類否によつて決すべきである。そこで、本件登録意匠と引用意匠および従来から公知であつたことについて当事者間に争のない螺旋状に隆起筋条の現われた可撓伸縮ホースと対比するのに、当事者間に争のない本件登録意匠および引用意匠の構成によれば、両意匠は、ホースの管肉内に介在させたメリヤス網目模様が表面に透かして見えるという点では共通するが、本件登録意匠には隆起した螺旋状筋条があるのに反し、引用意匠には全くこれがないこと、また、公知の可撓性伸縮ホースも本件登録意匠もホースに螺旋状に隆起筋条が現われているという点では共通するが、本件登録意匠でホースの管肉内に介在させたメリヤス網目模様が表面に透かして見えるのに反し、公知の可撓性伸縮ホースではこのようなものが見られないことがいずれも明らかである。そして、右の事実に<書証>を併せ考えれば、本件登録意匠は、右の隆起した螺旋状筋条が高く浮き出した無地の斜縞をなし、筋条と筋条との間が低く沈んだ網目模様から成る斜縞をなし、両者が長手方向に沿つて交互に現出し、そのコントラスト(対比)とリピート(繰返し)により看者の視覚を通じて美感を与えるものであり、引用意匠および前記の可撓性伸縮ホースのいずれとも全く異なつた意匠的効果を有するものと認めるのが相当である。他に右認定を動かすに足りる証拠はない。したがつて、登録意匠が叙上の二者と類似の意匠であるという原告の主張は採用しがたい。

三次に、原告は、本件登録意匠は前述の可撓性伸縮ホースおよび引用意匠に基づいて容易に創作することができる意匠である旨主張する。ところで、意匠は意匠に係る物品について実施されるものであり、物品と一体をなしているものである点で発明、考案と異なるから、意匠法第三条の規定は、これに対応する特許法第二九条または実用新案法第三条とはいささか趣を異にし、第一項、第二項ともに意匠の登録要件として出願意匠に創作性(オリジナリテイ)があることを要求する規定であると解するのを相当とする。すなわち、意匠法第三条第一項は同一または類似の物品の公知意匠との関係で創作性を欠く意匠、すなわち同一または類似の意匠の登録を防止し、同条第二項は、同一または類似の物品以外の物品と一体をなした周知の意匠あるいは周知の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合との関係で創作性のない意匠、すなわちいわゆる転用意匠(たとえば、米国の自由の女神の像をかたどつたラジオ受信機のごとし。昭和四二年七月二五日言渡の当庁昭和三七年(行ナ)第一八七号事件判決――編注、後に掲出する――参照)の登録を防止しようとするものである。したがつて、同一分野の物品(本件登録意匠、引用意匠、前記可撓性伸縮ホースの形状は、いずれもホースという同一分野に属する物品にかかるものである。)の関係において本件登録意匠が登録要件を備えるかどうかを判断するには、もつぱら同条第一項によるべきであつて、同条第二項の適用はないものと解するのが相当である。そして、本件登録意匠が同条第一項の登録障碍事由に該当するものでないことは先に判示したとおりである以上、同条第二項に該当することを主張してその登録を争う原告の主張は、当裁判所の採用しえないところである。

四よつて、本件審決には原告主張の違法はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却……する。

(服部高顕 石沢健 滝川叡一)

<参考>

「ラジオ受信機」について米国ニューヨーク港自由の女神像を象つた意匠には意匠の考案の存在を認められないとした事例

(東京高等昭和三七年(行ナ)第一八七号、意匠登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求事件、同四二年七月二五日第六民事部判決)

【参照条文】旧意匠法一条

理由

一、<前略>本願意匠は、別紙図面記載のとおり、ラジオ受信装置を内蔵した台上に、自由の女神を象つた像を載置し、腕部に伸縮自在のアンテナを収納し、台部正面には楕円状のスピーカー孔を設け、肩部を円弧状とし、台部の上部前部の左右にダイヤルの一部を覗かせたラジオ受信機の形状および模様の結合にかかるものであるところ、<書証>および弁論の全趣旨によれば、本願意匠における自由の女神像は、アメリカ合衆国ニューヨーク港所在の世界的にきわめて著名な自由の女神像を象つたものである、一方、本件審決が引用した輸出アンチモニー工業協同組合の登録にかかる登録第八六九〇号の飾置物(以下引用飾置物という。)は、本願意匠の登録出願日(昭和三四年一〇月二〇日)以前の日である昭和三三年一一月頃国内に公然知られるにいたつていたものであるところ、この引用飾置物の女神像も、本願意匠におけると同様、前記自由の女神像を象つたものであること、本願意匠の女神像と引用飾置物のそれとの間には特段の差異が認められないことが認められる。

二、ところで、意匠を現わすべき物品は、本願意匠においてはラジオ受信機であつて、引用飾置物とは一応異なるけれども、意匠が現わされる物品としてのラジオ受信機が一般に飾置物としての面を具有することは顕著な事実であり、一方、世界的にきわめて著名な自由の女神像をそのまま象つて飾置物に利用するようなことは、きわめて広い活動分野をもつこの種近代的な飾置物をつくろうとするほどのラジオ受信機関係当業者であれば、容易に想到しうることであることが、引用飾置物の例示に徴しても、十分認めうるところであるから、本願意匠において、前記自由の女神像に特段の意匠的考察があるものと認めることはできない。

また、本願意匠における台部についても、視覚を通じて得られる外形全体としての印象は、特別のものがあるとは認めがたく、台部の上部前部左右に僅か覗かせたダイヤルの一部、台部正面の楕円状のスピーカー孔などの点を考慮しても、なお一般常識的の域を脱せず、さらに、女神像とこの台部とを全体として観察しても、前記のような台部の大きさその他の外形は、女神像の形状模様に普通に応じたものと感ぜられ、量感その他として何らかとりたてたものがあるものとは認めることができない。女神像のあげた腕部に収納されたアンテナにも、本願意匠の全体からみて特別、趣味感を起こすに足りるものがあるとは認めがたく、ここに意匠の考案の存在を認めるに足りない。

原告が本願意匠と類似の事例について登録された意匠として提示するものも、これをもつてただちに本件における以上の判断を左右しうべきものではない。

三、以上のとおりであるから、本願意匠をもつて意匠としての特殊の形状および模様についての考案をしたものとは認められず、旧意匠法第一条に規定する意匠の考案とはいえないとした本件審決には、原告主張のような違法の点が認められず、これを理由にその取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものといわざるをえないから、これを棄却する。(三宅正雄 影山勇 荒木秀一)

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